新潟地方裁判所 昭和56年(行ウ)5号 判決 1982年5月31日
主文
一 被告が昭和五六年六月一五日原告に対してした別紙目録記載の家屋の取得に対する不動産取得税賦課処分のうち税額金八万九五八〇円を超える部分はこれを取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は別紙目録記載の家屋(以下「本件家屋」という)を昭和五五年六月二七日ころ新築し、同月三〇日にこれを最初に使用して取得した。
2 被告は昭和五六年六月一五日付第五〇七六号納税通知書をもつて、税額金二一万九三〇〇円の不動産取得税を原告に賦課した(以下「本件処分」という)。
3 しかし、本件処分は家屋の評価及びその手続が地方税法又はその委任に基づく固定資産評価基準に反した違法な処分であり、適法な家屋評価をした税額は金八万九五八〇円となるからこれを超える部分は取り消されるべきである。
4 原告は本件処分を不服として昭和五六年六月三〇日、新潟県知事に対し地方税法第一九条、行政不服審査法による審査請求を行つたが、同知事が同日から三箇月を経過しても裁決を行わないため本訴請求に及んだ。
よつて、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因に対する認否
請求原因1、同2及び同4の各事実は認めるが、同3の主張は争う。
2 被告の主張(税額の根拠)
(一) 不動産取得税の課税標準
不動産取得税の課税標準は地方税法第七三条の一三によるべきところ、原告の本件家屋取得に対する取得税は新築家屋に対するものであるから、同条の一三第一項により「不動産を取得した時における不動産の価格とする」ことになる。
不動産取得税の課税対象となる不動産の価格は、市町村における固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については同条の二一第一項の規定により当該価格によつて決定し、右台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については同条の二一第二項の規定により道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によつて課税標準となるべき価格を決定することとされている。
(二) (家屋の価格)
固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日号外自治省告示第一五八号)によると、家屋の課税標準となるべき価格は、家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点(以下「損耗減点」という)を行つて付設した評点数に評点一点当たりの価額を乗じてこれを求めることとなつているが、不動産取得税における家屋の評価は「不動産を取得した時」を基準とするから新築家屋については家屋の損耗の状況による減点はしないでこれを求める。
(三) (税額とその算出)
本件家屋は新築家屋であるから、固定資産評価基準によつて求めた再建築費評点数(一一三七九九六二)に一点当たりの価額(一円に物価水準補正率〇・九と設計管理費等補正率一・〇五を乗じて算出した価額)〇・九五円を乗じて得た評価額から住宅控除額(三五〇万円)を控除した価格を課税標準額とし、これに税率(一〇〇分の三)を乗じて税額を算出する。
原告の本件家屋取得に対する税額は、別紙算式(1)記載のとおり金二一万九三〇〇円となるから、本件処分は適法である。
三 被告の主張に対する認否及び原告の反論
1 被告の主張に対する認否
被告の主張(一)は認め、同(二)及び(三)は被告がその主張にかかる算式により税額を算出したことは認めるが、本件家屋(新築家屋)について家屋の損耗減点をしないことが適法であるとの点は争う。
2 原告の反論
(一) 固定資産評価基準第二章第一節二前段は「各個の家屋の評点数は、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点を行なつて付設するものとする。」と規定している。これはいかなる家屋にあつても必ず損耗減点を行わなければならないことの明文規定であつて、このことは、その後段において需給事情による減点が「必要あるものについては」として、必要のないものが存在することを明示していることと対照してみても明らかである。また同章第二節一前段も同趣旨である。
そして、同章第二節四1は損耗減点は当該家屋の経過年数に応じてこれをなすことと規定し、その(3)において「経過年数が一年未満であるとき、又は経過年数に一年未満の端数があるときは、それぞれ一年未満の端数は、一年として計算するものとする。」と規定しているところ、経過年数が零年であつてもそれは一年未満であることは疑う余地がないからこれを一年として計算しなければならず、木造家屋経年減点補正率〇・八、積雪寒冷地域減点補正率〇・七五として損耗減点を行うと、本件家屋取得に対する税額は算式(2)記載のとおり金八万九五八〇円となり本件処分のうち右税額を超える部分は違法である。
(二) 道府県知事が市町村長の決定した固定資産の価格と異なる価格を決定する場合は、必ず当該家屋を県が独自に調査又は別途に調査しなければならないものである。なぜなら固定資産評価基準による家屋の評価は再建築費評点数を基礎とするものであり、再建築費評点数を付設するためには、当然その家屋の調査が必要であるからである。しかるに、新潟県知事は再建築費評点数の付設を目的として本件家屋を調査したことがなく、調査のないまま決定された価格に基づいて行なつた被告の本件処分は手続に重大な瑕疵があり違法である。
四 原告の反論に対する認否及び被告の再反論
1 原告の反論に対する認否
原告の反論(一)及び同(二)はいずれも争う。
なお本件家屋の木造家屋経年減点補正率が〇・八であること、積雪寒冷地域減点補正率が〇・七五であることは認める。
2 被告の再反論
(一) 需給事情による減点に関する規定の場合は、必要のあるものと必要のないものとがあるから固定資産評価基準第二章第一節二後段のような規定が置かれるのは当然であるが、一方新築家屋がその取得時において経年を理由とする減点が行われ得ないことは明らかであり(従つて積雪寒冷地域減点も行い得ない)、従つてこれは当然に除外されているにすぎない。
(二) 地方税法第七三条の二二の規定では「市町村長は第七三条の一八第三項の規定によつて送付又は通知をする場合においては、道府県の条例の定めるところによつて、当該不動産の価格その他当該不動産の価格決定について参考となるべき事項をあわせて道府県知事に通知する。」とされており自治省事務次官の依命通達には、「道府県知事が自ら不動産の価格を決定する場合において必要があるときは、市町村長の評価見込額その他当該不動産の価格の決定について参考となるべき事項を市町村長から徴する。」旨定められており、これらの規定及び「納税者の便宜を考慮して、評価の統一及び課税事務の簡素化をはかる趣旨」(依命通達)に則り、市町村長が固定資産評価基準に基づき調査評価した再建築費評点数により、地方税法第七三条の二一第二項の規定によつて知事が本件家屋の価格を決定しているのであつて本件処分手続は適法に行われている。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求原因1、同2及び同4の各事実は当事者間に争いがない。
二 被告の主張のうち、被告が別紙算式(1)記載のとおり税額を算出したことは当事者間に争いがない。
三 そこで、原告の本件処分にあたり損耗減点をしないのは違法である旨の主張につき判断する。
新築家屋に対する不動産取得税の課税標準は、地方税法第七三条の一三第一項により「不動産を取得した時における不動産の価格とする」とされ、その価格は、市町村の固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については同条の二一第一項の規定により当該価格によつて決定し、右台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については同条の二一第二項により道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によつて課税標準となるべき価格を決定することとされているところ、本件家屋については課税標準時に右台帳に価格が登録されていないから新潟県知事が右固定資産評価基準により価格を決定すべきこととなる。
ところで被告主張にかかる別紙算式(1)における再建築費評点数に直ちに一点当たりの価額を乗じて得た評価額(11379962×0.95円)は、再建築費すなわち家屋の新築時の価格ともいうべきものであるが、被告はこれを取得時の価格とみなして税額を算出している。たしかに、家屋の新築時と取得時が同一日時である場合には新築時の価格は取得時の価格であるといいうるものの、新築時が昭和五五年六月二七日ころであり、取得時が同月三〇日であることが当事者間に争いのない本件家屋の場合にあつては、新築時の価格を取得時の価格とすることは、家屋の新築時と取得時との間の時間的経過を無視するものであつて、一年未満の経過年数をも一年として損耗減点をすべきことを規定する固定資産評価基準に反することとなるというべきである。
従つて、本件家屋の取得時の価格を算出するにあたつて新築時の価格に損耗減点を行わない本件処分は違法である。
なお、被告が本件家屋につき損耗減点をする必要がない旨主張する根拠は、本件家屋のような新築家屋については取得時の価格を課税標準とするから時間的経過がないということに尽きるが、取得時の価格に損耗減点を施すべきでないことは自明であるが、問題は取得時の価格算出にあたつて損耗減点が必要か否かにあり、本件家屋の場合は新築時と取得時との間に時間的経過があるから、被告の主張はその根拠を欠くものである。
四 本件家屋について木造家屋経年減点補正率が〇・八であること、積雪寒冷地域減点補正率が〇・七五であることは当事者間に争いがないところ、本件家屋の再建築費評点数にこれらの補正率を乗じて損耗減点をしたうえ税額を算出すると別紙算式(2)のとおりであつて、原告に賦課すべき税額は金八万九五八〇円となる。
そうすると、本件処分のうち、右金額を超える部分は違法として取り消されるべきである。
五 以上にによれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認否することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
別紙目録(省略)